「くにたち桜守」を始めたきっかけ
大谷さんが「桜守」を始めたのは、今から20数年前に友人と大学通りを歩いていた際に、車にぶつけられた桜の樹皮が大きく剥がれているのを見付けて、市役所の相談窓口に問い合わせをした所、係りの人に「ええ、知っていますよ。でも傷ついた桜でも毎年、花を咲かせるので大丈夫です。」と返答されたことがきっかけだという。正義感の強い大谷さんはさっそくその春の「くにたちさくらフェスティバル」の実行委員に立候補をした。併せて、国立の街にある桜がどのような経緯で植えられたのかを調べるようになった。その結果、大学通りの桜200本は昭和9年から10年にかけて、谷保村(当時)の青年団と国立町会の人たちによって植えられたと判明した。また大学通りと交差している桜通りの桜200本は、昭和41年から車道に沿って植えられたもので、春にはその見事な桜のトンネルを見る為に多くの人たちが集まって来て、交通渋滞になるほどだという。
初参加の「くにたちさくらフェスティバル」では、「くにたち桜物語」のタイトルで国立の桜の由来や痛んだ桜の写真をパネル展示するなどした。フェスティバルへの参加3年目には桜のポストカード(300円)を販売して、そこで集めた収益金で傷ついた桜の樹の薬を買うことが出来た。大谷さんらの地道な活動が実を結んで、参加6年目には桜の保全活動に1.000人の市民が参加するようになった。
翌年2000年には国立市から補助金も下りたので、「枯れ枝を切る」「傷口に薬を塗る」などの本格的な桜のドック事業を展開すべく「くにたち桜守」を立ち上げた。
桜の声を知っていますか?
「くにたち桜守」代表の大谷さんは、現在、国立市内にある6つの小学校と2つの中学校、そして1つの高校の約3.000人の子どもたちに、「桜守」および「環境問題」に関する出張授業を実施している。「環境問題」と一口にいっても、小学校に上がり立ての新1年生たちには理解できないので、五味太郎さんの「みんなのうんち」(福音館書店)の読み聞かせをしながら、まずは「ミミズのうんち」の話から始めるという。授業を進める中で、子どもたちには「桜の声を知っていますか?」「桜の樹はなぜ枯れるのかな?」などの問いかけもしていく。
授業は1~3学期、つまりは一年を通して実施されている。活動は多岐にわたっており、広い範囲に浅く根を伸ばす習性のある桜の樹の根元が踏み荒らされない様に、そして土がフカフカになる様にと菜の花の種を蒔いたり、肥料を蒔いたりもする。
”五感で感じる”体験が大切
大谷さんは「桜はあくまでも“きっかけ”に過ぎず、素敵な桜並木に出会うと心がホッと和んで、花や木や小さな生き物などの自然や、周りの人たちへの思いやりを持てるようになる。」と語る。実際に小鳥や蝶やトンボなどの小さな生き物たちが棲める環境は人にとっても良い環境で、国立市内には桜並木だけでなく、矢川の清流やハケの湧き水などもある。大谷さんは「桜守」の授業の一環で3月などの春先に、実際に子どもたちに裸足になって矢川の清流に足を浸して、その体感温度を味わってもらうなどの体験もさせている。水に入った子どもたちは「想像していたのと違って、湧き水は温かいなあ」と素直に感動を表す。
こうした「桜守」の授業を受けた子どもたちは、桜並木の下に置く立て看板を積極的に製作したり、作業に勤しむ大谷さんや他のボランティアのメンバーたちを見かけると「こんにちは!ありがとうございます」と自然と声を掛けて来る様になる。大谷さんたちの活動や子どもたちの立て看板がきっかけとなって、桜の花見時のゴミも従来の10分の1に減ったという。
「素敵な景観を未来に遺して、次の世代へ繋げて行くことが何よりも大切」という大谷さんは、今日も元気に市内を飛び回っている。
(取材・記事 伊藤万理)